前号では、新しいスタイルのお墓をいくつかご紹介しましたが、こうしたお墓が生まれてきた背景には、当然のことながら、お墓を建てる人々の意識の変化があります。今月は、この意識の変化について書いてみようと思います。
元来、お墓にはどのような役割があったのでしょうか?一般的には次のような意味を持っていたのではないか、と思われます。
・先祖供養のためのお墓
・遺骨の埋蔵場所としてのお墓
・故人の記念碑としてのお墓
いずれにも共通しているのは「既に亡くなった人たち」のためのお墓であるということだと言えます。
ところが、前号で挙げた様々なお墓のスタイルをじっくりと見てみますと、両家墓の普及は、お墓を守る子孫が居なくなる不安が背景のひとつとして考えられますし、ご自身の身近な場所へお墓を移したり(改葬)、ご自身ひとりのためのお墓を建てると言った傾向(個人墓など)が見られます。つまり、「まだ亡くなっていない人たち」を念頭に置いて、お墓を考えるようになってきていると思われるのです。
こうした意識の変化を裏付けるものとして、まず少子化社会に対する不安が挙げられるのではないでしょうか。
2004年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む平均子供数)は、過去最低の1.29でした。3月14日の川崎厚生相の答弁によれば、2005年の出生数は、2004年より4万4千人ほど減少しているということで、さらに出生率が下がると予想されます。
結婚に対する考え方も、今と昔では変わっている部分も多いとは思いますが、それでも多くの場合、女性は男性の姓に変わり、名字の上では夫の家系の人間となっています。誤解を招く書き方になるのかも知れませんが、ここでもし、妻の実家が一人っ子であった場合、姓を変えた時点で、妻の実家のお墓と家を守る人が居なくなってしまうことになります。そして、その可能性は決して少なくないものであることが、「出生率1.29」という数字に見ることができます。「遺骨を埋蔵し、子々孫々にわたってお墓を守っていく」という、これまでのお墓に対する考え方を満たすことができない時代になっていると言えるのではないでしょうか。
こうした社会背景によって、両家墓のような、いずれ無縁墓となる可能性を低くするための対策が見直され、もっと踏み込んで、無縁となることを前提として、永代供養墓や樹木葬などの、墓石を伴わないお墓が注目されているのです。
間もなく、団塊の世代の大量退職を迎えます。改めて言うまでもなく、団塊の世代によって社会は大きく変化しました。そして、今、彼らがシニアライフを迎えるにあたり、周辺のビジネスも含めて、老後の生活の「新たな形」が模索されています。その中で注目したいのは、各地方自治体が退職者の受け入れを推進していることです。
高度経済成長期には、多くの若者が地方から都市へ移りました。はじめは労働力としてでしたが、進学率の上昇や産業の高度化に伴って、実家を守るべき存在だった長男も、故郷を離れて都会に出てくる場合が多くなりました。このため、地方には老いた親が残り、子供達は都会で生活するという家庭が多くなりました。お盆や正月の帰省ラッシュのニュースを見れば、そうしたご家庭が非常に多いことがわかります。
今、実家を離れて都会に出ていった最初の世代が退職します。こうした世代の方たちが、退職後の余生を生まれた故郷で過ごすのか?というと、どうやらそうした傾向はあまり見られないようです。都会に出て結婚した人たちは、夫婦それぞれの故郷が違う土地であることが非常に多く、どちらかの故郷に戻るのであれば、今の場所にとどまるか、あるいは夫婦それぞれとは関係のない、別な場所に移住しようとお考えの方が多いようです。各自治体の退職者受け入れの活動は、まさにこうした現象に対応しているのではないでしょうか。
このとき、故郷とは別の場所で余生を過ごす場合、故郷のお墓を誰が管理し守っていくのか?という問題、そして、いずれご自身がお墓に入られる場合にどうするのか?という問題が出てきます。こうした問題の対策として、お墓をご自身の居所へ移したり(改葬)、ご夫婦のためのお墓を別に建立される方が増えてきています。
そして近年、特に女性を中心に「死」に対する意識が変化していると感じられます。大学や公共団体などが主催する、各種セミナーや講
習会でも、「葬儀」「お墓」などをテーマとする講座に、中高年女性の参加者が多くなってきています。北海道新聞でも、葬儀に関するテーマのコラムが連載されていますね。お客様とお話しする中でも、コラムを話題として出される中高年女性は、少なからずおられます。
聖徳大学生涯学習オープンアカデミーでは、1994年から7回にわたって、女性のためのお墓や葬儀に関する生涯学習講座を開講されました。この講座は有料の講座であるにも関わらず、毎回10~30人の女性が熱心に学んでいかれたと聞いております。ここに参加された受講生から、様々な質問が寄せられてきたのですが、その内容は、大きく分けて次の2点だったということです。
・お墓を造る際の、または現在あるお墓の継承に関する問題について。
・お墓は造らない、またはいらないという考え方について。
先に述べたように、従来のお墓は、父系の先祖を子孫が祀り守っていくものとしての位置づけが大きかったわけですが、実際にお墓を守っていたのは女性だったというご家庭は少なくなかったのではないでしょうか?
ところが、女性の社会的地位が向上するにつれて、女性自身のものの考え方も変化してきたように思われます。ご自身の死後に対しても同様で、従来の父系の家を前提としたお墓に対する考え方にも変化が見られます。先に挙げた聖徳大学のアカデミーの例もその一つで、こうした変化の中から、様々な新しいスタイルの埋葬が生まれました。ご自身だけが入る個人墓の他、樹木葬や公園のような自然の中でひっそりと眠るスタイルの墓地が注目されています。いずれもが、従来のお墓に対する考え方とは違った、新しい意識によって生まれたスタイルです。
このようなお墓に対する意識の変化は、日本だけに限らず、海外でも起きている変化です。少子高齢化が進んだ国では、日本と同じように、お墓を守っていく人が居なくなる可能性が大きくなり、私たちと同様に、お墓に対する意味づけが変化しつつあります。また、従来は土葬の文化圏であったキリスト教圏でも、近年、火葬が普及し、これに伴って、お墓のスタイルにも変化が見られます。公園スタイルの墓地などもその一例で、日本にも取り入れられつつあります。
グローバル化が進む今、こうした各国で生まれる新しいスタイルのお墓は、今後、日本にも様々な形で紹介されていくことと思われます。次回は、こうした外国の新しいスタイルの墓地について、いくつか紹介してみようと思います。
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