倭健は酒折宮から信濃を越え
尾張の美夜受比売(ミヤズヒメ)のもとに帰ってきた
約束を果たして結婚をして
そのあと、伊吹山の神を倒すために出かけて行った
その際に伊吹山の神を素手で倒してみせると意気込んで
草薙剣(きさなぎのつるぎ)を美夜受比売のもとに置いていった
伊吹山の神は巨大な白い猪の姿となって現れた
倭健は伊吹山の神を山の神の下僕だと言って侮辱したため
神を怒って激しい雹を降らせた
倭健は意識がもうろうとなり
玉倉部の清水にたどり着いて、なんとか正気を取り戻した
倭比売が授けた草薙剣は
伊勢神宮の加護の証で
剣を手放したことによって倭健の運命は暗転してしまったのである
様々な戦いによって挙げた功績の数々も
伊勢神宮の神威が後ろ盾になっていたからだったのだ
倭健の肉体は衰えていった
歩くのも困難だったが
体に鞭を打って
故郷の大和への道をたどった
鈴鹿を越えれば大和に着くという能煩野(のぼの)まできて
倭健は自分の死期を感じていた
そして故郷を忍んで歌を詠んだ
「倭は国のまぼろば たたなづく青垣 山隠れる倭しうるわし」
(大和国は国の中でももっとも秀でている。山々が青垣のように囲み、なんと美しいことか)
そして懐かしい我が家のほうから雲が沸き起こってくると
うたい命尽きた
勇猛であった倭健は父から避けられて
生涯、戦いに明け暮れるしかなかった
倭健はそんな悲しい英雄だった
悲報を聞き大和から遺族がかけつけ
陵をつくって嘆き悲しんでいたが
倭健の魂は白い鳥になって陵から飛び立っていった
白鳥は河内の志幾(しき)に飛来したため
その地にも陵をつくったが
白鳥はまた飛び立っていった
倭健の物語は
各地を平定していった多数の戦士たちの活躍と苦悩を
ひとりに集約したのではないかとも言われている
表舞台に立つことはないが
国の建国の時期に活躍した戦士の魂を鎮めるための物語なのかもしれない